翻訳 ブログ|翻訳のサムライ
翻訳業界、翻訳の仕事に興味のある方、必見!? 翻訳業界の実態をブログにしました。
入会権の翻訳
入会権の翻訳(英訳)
入会権はいりあいけんと発音します。にゅうかいけんのように見えますが、いりあいけんです。
里の人たちが薪を採ったり、しいたけを採ったりするために里の近くの土地、山に自由に入るため、共同で使用する風習を明治以降の法体系(民法、Civil Code)で構成したものです。このようにして利用する山、土地を入会地といいます。
一般の言葉では里山と呼ぶこともあり、これに類似した慣習は昔から外国でも一般にみられるようです。(※里山の語義はより広い意味で使用されることも多く、ここでは住民が共同で使用する山を指す場合の里山を狭義の里山としてとりあえずご了解ください)
里の住民が山をみんなで利用するとき、山を住民が共有又は総有している場合もあるでしょうけれども、山の所有者が国、私人など別の人物である場合、住民が山を使用するには近代の法律ではどう解釈して合法化させるかという問題です。
所有権がない土地を使用する権利、すなわち他人の所有する土地を使用する物権は用益物権と総称することができます。地上権(Superficies)、地役権(Servitudes)、永小作権(Emphyteusis)、入会権(Rights of Common)などがあります。物権とは、者に対する絶対的な権利で、英語ではreal rights、rights in rem などが適当です。但し、英米法は慣習法(common law)を基礎にしており、大陸法の流れをくむ日本の民法が定める物権という概念はないので、翻訳に際して正しい理解が得られるよう注意が必要です。
なお、地上権、永小作権などの物権に対して、同じく他人の土地を使用する権利を発生する法的手段として賃貸借契約を結んで使用する土地の賃借権(rights of lease)があります。これは人と人との間の契約に基づく債権(claims、又はrights in personam)であり、物権(real rights又はrights in rem)ではありません。但し土地の賃借権は借地借家法(Land and Building Lease Act)などで本来賃借権ではみとめられない権利が付与されており(土地賃借権の物権化)、地上権と賃借権を総称して借地権などとも呼び両者の差異が縮小している傾向があります。
入会権は物権であり、里の住民はこの物権である入会権を総有するということになるかと思います。総有の公式訳はまだ見つからないのですが、共有がjoint ownershipなどと訳されることが多いことから考慮すると、総有はcommon ownershipとなるでしょうか。共有と総有は法律のタームとしては明確に違う定義のものですが、一般にはあまり明確に区別されていない場合もあり、英語訳も使用例が混在しているようです。
入会権は権利を総有するという意味あいがあるからでしょうか、法令翻訳プロジェクトで入会権は英語でRights of Common と訳されています。従って日本の入会地の英語訳はland of rights of common 又はrights-of-common landになる道理かと思います。
なお、入会権、入会地は法律のタームなので、俗に里山(狭義の意味での里山)という場合に対応する英語として、この入会地の英語を里山の訳に使用する理由は特にありません。里山に対応する英語としてはむしろ外国でこのような山を呼称して用いる用語を選ぶのが適当です。ノルウエーの例で似たような山をCommon Forestsと呼んでいるものがあり、またwoodland commonsという用法も見られます。
入会権はいりあいけんと発音します。にゅうかいけんのように見えますが、いりあいけんです。
里の人たちが薪を採ったり、しいたけを採ったりするために里の近くの土地、山に自由に入るため、共同で使用する風習を明治以降の法体系(民法、Civil Code)で構成したものです。このようにして利用する山、土地を入会地といいます。
一般の言葉では里山と呼ぶこともあり、これに類似した慣習は昔から外国でも一般にみられるようです。(※里山の語義はより広い意味で使用されることも多く、ここでは住民が共同で使用する山を指す場合の里山を狭義の里山としてとりあえずご了解ください)
里の住民が山をみんなで利用するとき、山を住民が共有又は総有している場合もあるでしょうけれども、山の所有者が国、私人など別の人物である場合、住民が山を使用するには近代の法律ではどう解釈して合法化させるかという問題です。
所有権がない土地を使用する権利、すなわち他人の所有する土地を使用する物権は用益物権と総称することができます。地上権(Superficies)、地役権(Servitudes)、永小作権(Emphyteusis)、入会権(Rights of Common)などがあります。物権とは、者に対する絶対的な権利で、英語ではreal rights、rights in rem などが適当です。但し、英米法は慣習法(common law)を基礎にしており、大陸法の流れをくむ日本の民法が定める物権という概念はないので、翻訳に際して正しい理解が得られるよう注意が必要です。
なお、地上権、永小作権などの物権に対して、同じく他人の土地を使用する権利を発生する法的手段として賃貸借契約を結んで使用する土地の賃借権(rights of lease)があります。これは人と人との間の契約に基づく債権(claims、又はrights in personam)であり、物権(real rights又はrights in rem)ではありません。但し土地の賃借権は借地借家法(Land and Building Lease Act)などで本来賃借権ではみとめられない権利が付与されており(土地賃借権の物権化)、地上権と賃借権を総称して借地権などとも呼び両者の差異が縮小している傾向があります。
入会権は物権であり、里の住民はこの物権である入会権を総有するということになるかと思います。総有の公式訳はまだ見つからないのですが、共有がjoint ownershipなどと訳されることが多いことから考慮すると、総有はcommon ownershipとなるでしょうか。共有と総有は法律のタームとしては明確に違う定義のものですが、一般にはあまり明確に区別されていない場合もあり、英語訳も使用例が混在しているようです。
入会権は権利を総有するという意味あいがあるからでしょうか、法令翻訳プロジェクトで入会権は英語でRights of Common と訳されています。従って日本の入会地の英語訳はland of rights of common 又はrights-of-common landになる道理かと思います。
なお、入会権、入会地は法律のタームなので、俗に里山(狭義の意味での里山)という場合に対応する英語として、この入会地の英語を里山の訳に使用する理由は特にありません。里山に対応する英語としてはむしろ外国でこのような山を呼称して用いる用語を選ぶのが適当です。ノルウエーの例で似たような山をCommon Forestsと呼んでいるものがあり、またwoodland commonsという用法も見られます。
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CNNのトヨタに関するレポート、CNNの報道は著しく不正確
先日、CNNがトヨタの開発段階の社内文書を入手し、翻訳をやらせたとして放送、掲載しています。Documents related to CNN's report on Toyota
http://edition.cnn.com/2012/03/01/us/toyota-acceleration-documents/index.html
「トヨタ車の予期しない急加速」と題して、この社内文書(事実上はその翻訳?)を根拠にトヨタは電機系の不具合で車両が急発進することを知っていたが隠していたと、センセーションをまき起こす形で報じています。
ところが、問題の日本語の原文と英語の翻訳を比べてみると、CNNが主張している点は単に極めて初歩的な「誤訳」によるところであることが明らかで、CNNのジャーナリズムに対する信頼を大きく壊しました。
CNNが一番キーにしている文章は頭の次のフレーズだと思いますが、
「“全車速ACCが勝手に発進”」
翻訳1:the cruise control activates by itself at full throttle
翻訳2:sudden unintended acceleration due to wrong judgment made by the full speed range Adaptive Cruise Control (ACC) System
翻訳3:the accelerator malfunction that caused the vehicle to accelerate on its own
日本語の社内内部資料では、アクセルセンサの異常時に、全車速ACC(停止から高速までの全ての車速域で機能するクルーズコントロールです)が勝手に発進した、と単純明快に書いているのです。(量産前の品質点検の書類ですからプロトタイプでの話です)
つまり、ACCは前方の車が停止しているときには、追突しないように搭載車を停止させていなければならないはずですが、アクセルセンサに異常信号を送るこ とにより、250Lでは全車速ACCが勝手に発進したと書いてあります。ここで、勝手とは、具体的にはアクセルを踏ふむことなくという意味かと想像します。
なお、「発進」はキーワードだと思いますので、ACCが「発進」した、という文脈ではトヨタ社内ではどういう意味で用いられるのか確認すべきと思 いますが、一般的な「発進」の意味からは、翻訳の一例にあるような sudden
unintended acceleration の意味にはとれません。他の情報がない限り、文脈から察してactivate(作動開始) とかに近い意味かと思います。
つまり原文で書いてあることは、
Full speed range ACC activated by itself
とだけ書いてあるのです。
これに対してCNNの翻訳は、at full throttle (スロットル全開で)とか(翻訳1)、
sudden unintended acceleration (突然の意図しない加速)とか(翻訳2)、そして翻訳3にいたっては
the accelerator malfunction that caused the vehicle to accelerate (アクセレレータの不具合により車両が加速した)などと、もう原文とは全く何の連関もないほどの全くの作文の世界!
少しベリフィケーション(元々の文章が同じである翻訳1と翻訳3の意味が全く違うことの意味を少しでも考えれば例え日本語が分からなくても?あれ、翻訳が間違ってるのかな?と思い至る)をすればいずれの翻訳もあやしいと容易に気がつくことなのに、CNNともあろう世界的なジャーナリストがどうしてこんな根拠の乏しい放送したんでしょうか?それが理解できません。
またもうひとつ。3つの英文ともキーワードとしてaccerelate(加速)と記述しているけれども、日本語の原文では「発進」。発進とaccerelateとは言葉の意味が違う。なぜ発進という言葉に対してそろってaccerelateを使わなければならなかったかが不明。そして、このトヨタ文書に書かれている「発進」というのは誠実に文章を読めば、文脈からして「作動」に近い意味で使用されていることが誰でも分かるはずなのです。原文ではACCの発進の話に絞り込んで議論しているにもかかわらず、翻訳ではすべて車両自体の「急発進」にすり替えられているのです。なぜ?
誤訳の原因を推定してみると、1つ目の翻訳は全車速(full speed range、クルーズコントロールの機能が停止状態から高速運転時まで機能するという、全ての車速域で、という意味です)を全速力と勘違いしたらしく、
2つ目の翻訳は、上記と同じ読み違いでしょうか、ACCが勝手に発進を「車両の突然の意図しない加速」と完全に物と動詞を取り違えていて、3つ目の翻訳は、アクセルセンサ異常時という条件節を、the accelerator malfunction(アクセレレータの不具合)と決めつけの主語にして、ACCが勝手に発進の部分をthat caused the vehicle to accelerateと車両が加速したと「作文」しています。この3つ目の翻訳はACC ECU(Adaptive Cruise Control ECU)を accelerator ECU と訳しているので(僕はエンジニアでないので知りませんが、第一アクセレレータECUなんていうコンポーネントが自動車にあるんでしょうか)、明らかにACCの部分をaccelerator と感ちがいしているのです。きっとACCをacceleratorの頭3文字の省略形と思ったのですね。これはもう論外。
3つのうち2つが全車速ACCの全車速の意味を取り違えており、3つともシステムの「発進」(すなわち推察するところ作動開始)を「車の急加速」と無理やり取り違えており、そして3つとも大なり小なりACCをaccerelate(加速)と大きな勘違いをしているのが稚拙かつ極めて重大な問題で、これだけでもこれらは救えない深刻な問題を抱える文書で、いずれの翻訳文もまじめにテレビでとりあげるべき文書ではありません、と断言できます。
CNNはこんな放送をしては、あとで面目と信用が大きくつぶれるかもです。。。いいのかな、CNNの社長さん。早くトヨタと世間に謝ってしまいなさい!
(もし誰かにご迷惑になることがありましたら直ちに削除しますので、遠慮なくお知らせください)
永江俊一
http://edition.cnn.com/2012/03/01/us/toyota-acceleration-documents/index.html
「トヨタ車の予期しない急加速」と題して、この社内文書(事実上はその翻訳?)を根拠にトヨタは電機系の不具合で車両が急発進することを知っていたが隠していたと、センセーションをまき起こす形で報じています。
ところが、問題の日本語の原文と英語の翻訳を比べてみると、CNNが主張している点は単に極めて初歩的な「誤訳」によるところであることが明らかで、CNNのジャーナリズムに対する信頼を大きく壊しました。
CNNが一番キーにしている文章は頭の次のフレーズだと思いますが、
「“全車速ACCが勝手に発進”」
翻訳1:the cruise control activates by itself at full throttle
翻訳2:sudden unintended acceleration due to wrong judgment made by the full speed range Adaptive Cruise Control (ACC) System
翻訳3:the accelerator malfunction that caused the vehicle to accelerate on its own
日本語の社内内部資料では、アクセルセンサの異常時に、全車速ACC(停止から高速までの全ての車速域で機能するクルーズコントロールです)が勝手に発進した、と単純明快に書いているのです。(量産前の品質点検の書類ですからプロトタイプでの話です)
つまり、ACCは前方の車が停止しているときには、追突しないように搭載車を停止させていなければならないはずですが、アクセルセンサに異常信号を送るこ とにより、250Lでは全車速ACCが勝手に発進したと書いてあります。ここで、勝手とは、具体的にはアクセルを踏ふむことなくという意味かと想像します。
なお、「発進」はキーワードだと思いますので、ACCが「発進」した、という文脈ではトヨタ社内ではどういう意味で用いられるのか確認すべきと思 いますが、一般的な「発進」の意味からは、翻訳の一例にあるような sudden
unintended acceleration の意味にはとれません。他の情報がない限り、文脈から察してactivate(作動開始) とかに近い意味かと思います。
つまり原文で書いてあることは、
Full speed range ACC activated by itself
とだけ書いてあるのです。
これに対してCNNの翻訳は、at full throttle (スロットル全開で)とか(翻訳1)、
sudden unintended acceleration (突然の意図しない加速)とか(翻訳2)、そして翻訳3にいたっては
the accelerator malfunction that caused the vehicle to accelerate (アクセレレータの不具合により車両が加速した)などと、もう原文とは全く何の連関もないほどの全くの作文の世界!
少しベリフィケーション(元々の文章が同じである翻訳1と翻訳3の意味が全く違うことの意味を少しでも考えれば例え日本語が分からなくても?あれ、翻訳が間違ってるのかな?と思い至る)をすればいずれの翻訳もあやしいと容易に気がつくことなのに、CNNともあろう世界的なジャーナリストがどうしてこんな根拠の乏しい放送したんでしょうか?それが理解できません。
またもうひとつ。3つの英文ともキーワードとしてaccerelate(加速)と記述しているけれども、日本語の原文では「発進」。発進とaccerelateとは言葉の意味が違う。なぜ発進という言葉に対してそろってaccerelateを使わなければならなかったかが不明。そして、このトヨタ文書に書かれている「発進」というのは誠実に文章を読めば、文脈からして「作動」に近い意味で使用されていることが誰でも分かるはずなのです。原文ではACCの発進の話に絞り込んで議論しているにもかかわらず、翻訳ではすべて車両自体の「急発進」にすり替えられているのです。なぜ?
誤訳の原因を推定してみると、1つ目の翻訳は全車速(full speed range、クルーズコントロールの機能が停止状態から高速運転時まで機能するという、全ての車速域で、という意味です)を全速力と勘違いしたらしく、
2つ目の翻訳は、上記と同じ読み違いでしょうか、ACCが勝手に発進を「車両の突然の意図しない加速」と完全に物と動詞を取り違えていて、3つ目の翻訳は、アクセルセンサ異常時という条件節を、the accelerator malfunction(アクセレレータの不具合)と決めつけの主語にして、ACCが勝手に発進の部分をthat caused the vehicle to accelerateと車両が加速したと「作文」しています。この3つ目の翻訳はACC ECU(Adaptive Cruise Control ECU)を accelerator ECU と訳しているので(僕はエンジニアでないので知りませんが、第一アクセレレータECUなんていうコンポーネントが自動車にあるんでしょうか)、明らかにACCの部分をaccelerator と感ちがいしているのです。きっとACCをacceleratorの頭3文字の省略形と思ったのですね。これはもう論外。
3つのうち2つが全車速ACCの全車速の意味を取り違えており、3つともシステムの「発進」(すなわち推察するところ作動開始)を「車の急加速」と無理やり取り違えており、そして3つとも大なり小なりACCをaccerelate(加速)と大きな勘違いをしているのが稚拙かつ極めて重大な問題で、これだけでもこれらは救えない深刻な問題を抱える文書で、いずれの翻訳文もまじめにテレビでとりあげるべき文書ではありません、と断言できます。
CNNはこんな放送をしては、あとで面目と信用が大きくつぶれるかもです。。。いいのかな、CNNの社長さん。早くトヨタと世間に謝ってしまいなさい!
(もし誰かにご迷惑になることがありましたら直ちに削除しますので、遠慮なくお知らせください)
永江俊一
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